カネマツコラム

  カネマツ先生が、福祉現場や福祉の教育現場、地域での支援に携わる中で得た“ふとした気づき”を、

  現役職員のみなさんにコラムでおすそ分けします。


金松敏信氏


 金松敏信(かねまつとしのぶ)氏
  障害児者施設で指導員として30年勤務した後、2015年まで長崎女子短期大学教授として学生を指導。
  現在、長崎介護実践研究所代表として、福祉に関わる人々を支える活動を行っている。


第6回 置かれた場所で咲く

「置かれた場所で咲きなさい」という渡辺和子さんの著書がベストセラーになりました。
全く同じ言葉は、多くの方のエッセーにでてきます。今いる場所で精一杯咲く人になりたいと思います。
ある時、マザーテレサは、「何故数時間後に息を引き取るこの人を世話(ケア)するのか、輸液や投薬が無駄ではないか」と問いかけられました。
マザーテレサは、「この人の人生の最期に側にいてあげること、手を握ってあげることが大切だ」という主旨を述べられています。
末期の癌患者が、痛さに我慢できず一日中大声をだしますが、看護師はどうすることもできません。
そんな時、看護師は、患者のベッドの側で患者の手を握り擦ってあげます。
その時点では最善の看護です。痛くて我慢できない患者の側にいてあげ、看護師もその苦しみを担い共感しているのです。
大切なことは、介護という他者の生活に介入する職員が、単なる技術の提供でなく、生活や人生を送る中で他者の支援を必要とする介護行為に愛を込めることができると否かということです。

第6回イラスト:コバヤシアンナ


私達は、口角を上げて笑顔の形を作ることはできますが、目が微笑む人間になりたいと思います。
これは自分との戦いだなあと思うこの頃です。
とても参考になる本があります。六車由美さんの「驚きの介護民俗学(医学書院2012年3月)」です。
ご興味があれば、読んでみてください。

第5回 自分がされて嫌な事は、他者にしてはいけない

昭和43年に発行された佐古純一郎さんの「無くてならぬもの」に
「自分が他人からされて悲しいこと、つらいこと、迷惑なことは、他人にしてはならないのだ」
また、「自分が大切なように、人様も大切なのです」という一文があります。私は、全く同感です。

時代は過ぎ、介護が専門性を持つ職業として認められました。
自分と他の人の感じ方や価値観は複雑で、自分と他者の感じ方は同じではありません。
まして、福祉業界は多数の外国人を必要としています。職種も多様です。
施設職員の多くは、認知症やALSや難治性てんかん症候群、自閉症として過ごした経験がありません。
このような実体験がない職員が当事者のケアをしているのです。

私は、多くの日本人が学習過程や成長過程で体験・経験することを、
知的または身体的重症度の如何に関わらず、入所者にも体験する機会を提供したいと思いました。
稲を刈り、収穫した米を食べる経験もしました。

第5回イラスト:コバヤシアンナ


ボウリング場に自閉症の方と行きました。
ピンがはじける音、大音量の音楽や突然の場内アナウンスに自閉症のQさんはパニックになりました。
本人には想像できない恐ろしい空間だったのでしょう。
私達は、急ぎマイクロバスに彼を避難させ、静かな場所で彼も落ち着きを取り戻しました。
私達が好きなことが彼には耐えられない苦痛だったのです。

経験とは学習である。支援の個別化をしっかり意識したい。
本人の意思決定支援が如何に重要なことか、改めて学習し直しです。

第4回 介護現場での職員の言葉

養老孟司氏の「バカの壁」という書籍がベストセラーになって久しくなります。
解剖学者であり、多くの著書を書かれている方の「バカの壁」の内容はいざ知らず、
私は「バカ」という言葉に非常に神経質になっております。

私が30代だった措置の時代。
措置で入所されていた利用者から「私達はバカだからここにいるのでしょう」と言われましたことがあります。
選択の自由のない時代の障害者から、生活への不満や将来への不安を吐露された時、私は返す言葉がありませんでした。
「私の人生は行政や職員の意のままに生きて行くことしか出来ないのですか」と。

第4回イラスト:コバヤシアンナ


本人の意志や気持ちを優先した支援計画は不十分で、
「このように関わったらいいな」という職員中心の支援計画を実践していました。
「このような関わりでいいのかなあ」と悩んでいた時、「私達はバカだから」と言われたのです。

このことがあってから、自分はもちろん職員も勤務中に利用者に向かっても「バカ」と言う言葉は使わないように気をつけました。
「私、バカだったね」と自分にいうことは、差し支えないのですが、他者にバカというのは大変失礼です。
今は、思い切って言ってくれた利用者に感謝しています。

第3回 「施設便り」に思う

多くの施設は、隔月あるいは季刊の施設便りを利用者家族や関係機関などに届けておられます。
最近は、オールカラーでレイアウトも素敵なものばかりですね。
施設の頑張りがダイレクトに伝わってきます。
花見や買い物の外出や施設内での季節行事は施設毎に工夫され、参加者の表情も良く、
その瞬間を捉えてきている写真に私も幸せになります。
忙しい中の編集の苦労もわかります。

さて、外出や行事の時の利用者は、はじけるような笑顔ですね。
笑顔だけでなく笑い声も聞こえる気がします。
その笑顔を引き出すために職員は、頑張っているのかなと想像します。

40年くらい前になりますが、ある入所者は、幼少の時から、病院や施設暮らしでした。
ある職員の「Aさんの笑顔を見たことがない、Aさんは笑うのですか」という一言が職場で話題になりました。

第3回イラスト:コバヤシアンナ

「本当だね。Aさんは、殆ど感情を表さないね」ということで、支援計画は「Aさんの笑顔を日常生活の中で見ることが出来る」を第一にあげました。
特別な行事でなく、日々の生活を楽しく過ごすことが出来たら、人は幸せだと思ったのです。
交代勤務の職員全員が、朝一番にAさんに、朝の挨拶をすることになりました。
半年もすると、職員と距離を取っていたAさんから職員の方へ近づいてくるようになりました。

施設の中で利用者と信頼関係を深めるのは容易なことではありませんが、
職員の連携は成果として現れると信じ、諦めない事が重要ですね。

第2回 人間の尊厳

「介護の仕事はいかがですか」と職員に問いかけると、8割の職員は、
「介護の仕事は体力勝負で利用者の要望に応えるために一瞬たりとも心が安まる時がなく夕方は疲労を感じます」といいます。
「そんなにきつい仕事をなぜ続けるのですか」と尋ねると、
「利用者からの感謝とねぎらいの言葉で、“明日も頑張ろう”という気持ちが湧く」といいます。

第2回イラスト:コバヤシアンナ

おむつを当てた寝たきりの利用者は、「ありがとう」という感謝の言葉や表情で職員を力づけ励ますという素晴らしい仕事(役割)をしているのです。

他者の役に立ちたいという欲求は全ての人が持つ欲求ですが、
介護度や障害が重くても、その存在を認められ、そこにいることを無視されないことで
尊厳を維持できるのではないでしょうか。

利用者の心や感情に寄り添った関係を深めて行きたいです。
利用者やこの仕事がつまらないと思う職員がいたら、あなたの生き方がつまらなくなるのです。

信頼関係を深めるためには、利用者一人ひとりを深く知る事が大切になります。
利用者の介護度や障害支援区分のみに頼らず、気持ちをくみ取れる職員を目指して頂きたいと切に思います。

第1回 目指したい職員像

介護を目指す学生や生徒に「どのような介護者になりたいか」とアンケートをしますと、
最も多いのは、「笑顔を絶やさず、利用者に信頼される介護者になりたい」との回答です。
とても大切な事です。

人は、自分の望む快適な時間や空間を持ち続けることは、至難です。
一番身近な家庭内での会話は明るく明日への活力になっていますか。
笑顔はどうでしょうか。
職員同士では、常に笑顔で会話しているでしょうか。

「笑顔」と「信頼関係」は、家庭でも職場でも大切で、
これがなければ、分裂や批判、不満になることもあり、ストレスにもなります。

世界の幸福度調査で、残念ながら日本は上位ではありません。
信頼関係が持てないとか、将来に希望が持てないなど複雑な要素が絡みますが、
福祉の現場では、利用者のことは、利用者に学ぶ姿勢が信頼関係や笑顔につながると思います。

第1回イラスト


私が忘れられないのは、
「職員や教師は、指導や支援計画がうまくいかない時、その原因を相手のせいにするが、本当は相手を理解するためのあなた達自身の知識不足や生き方や問題解決への努力不足にあるのではないか」
と、問題は自分にあると教えられたことです。

福祉現場には、資格や組織のあり方、人員不足などが多くの課題があるかと思いますが、
利用者や他の職員を理解しようとする各職員の姿勢があれば、
離職者を減らし、職員の笑顔や仕事への誇りも増大すると思います。

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